上田城で大暴れし、虎若子を倒した慶次は
幸村の強い勧めでそのまま城に一泊することになった
城主の私室に呼ばれ、上質な酒と立派な膳に
すっかり気分が高揚した慶次は上機嫌で舞を披露した
酒の回った体で動いたせいか、最後はよろめいて尻餅つき豪快に笑うと
グビっと盃を呷って飲み干す
「ぷッは~…!!美味いなぁ!」
「慶次殿は酒が強いのでござるな」
幸村は口元に笑みを浮かべて慶次を見つめた
「…武芸に優れた上、そのように容姿の整った男がいるとは…」
独り言のように呟く幸村を慶次は無邪気に笑う
「幸村も強いじゃねぇか!いやぁー久しぶりに本気になったぜ」
「左様か…」
「そうそう!戦場で出会ってたら、殺されてたかもなぁ」
そう言って幸村が継ぎ足した盃の酒を飲み干す
「真に…、俺より強い男がおるとは」
「俺なんか別に強くねぇって!鍛錬してるわけでもないし。あ、でも良かったら…指南…し、て」
ポロリと盃が落ち、透明な液体が畳に吸い込まれてゆく
意に反してカタカタと細かく震える指先に慶次は驚いて立ち上がろうとした
その膝がガクリと折れ、膳をひっくり返して倒れた
「な、何んだ?!…体が」
痺れて全く力が入らない慶次は、目を見開いて幸村を見上げた
幸村は全くの無表情でブツブツと呟いている
「俺は鍛錬もろくにしておらぬ男に敗れたのか…何と情けない。このような事がお館様の耳に入ったら…」
そう言って、深いため息をついた
「幸、村…」
「殺してしまいたが、前田の者となると…。
勝手に織田の手先を殺して戦になっては…お館様は何と仰せられるであろうか」
幸村は虚ろな目を空に漂わせながら、膳の団子を取るとバクリと一つ頬張った
「困った。殺すわけにはゆかぬ…されど、このままでは俺の気持ちがおさまらぬ」
クチャクチャと団子を咀嚼し、ゴクリと飲み込むその姿に
慶次は本能的に危険を感じた
「幸村、俺は…織田とは何の関係も」
「俺より強く、身の丈もある。それに…」
「なぁ、幸村、聞いてくれ」
餡で手が汚れるのも構わず、幸村は無心で団子を食っている
「それに、見た目も良い。学や芸にも秀でておる…何もかもが俺より優れておるではないか。
そのような事があってはならぬ。俺は上田城城主。虎若子の名を汚すわけには…」
「幸村!!!」
ありったけの声を振り絞って叫ぶと、幸村はハッとして慶次を見た
「これは慶次殿、失礼を致した。何の話でござったか…そうそう、武術を指南して下さる話でしたな」
「……」
口角を上げ満面の笑みを浮かべる幸村に慶次は体の血が凍りついた
「せっかくの申し出でござるが、お断り申す。俺は教えられるより、教え込む方が性に合う」
幸村は、力づくで慶次の着物を剥ぎ取ると全裸にして畳に転がした
「ゆ…幸村、何の真似だ」
幸村は腕を組んで、慶次の裸体を眺めた
「うむ。この男が泣いて俺を欲しがるようになれば…少しは気が晴れる。…佐助!」
幸村が呼ぶと、天井裏から忍びが下り立った
「佐助、慶次殿を座敷牢へ。それと、あの薬を与えておけ」
座敷牢と聞いて慶次は青ざめた
「幸村!!やめてくれ!頼むッ幸村、幸ッー」
忍が慶次を軽々と運んで行くのを見送ると、
幸村は指についた団子の餡をベロリと舐めた