おひさしぶりでーす。今週のヤンマガ、ついにケンちゃんの正体がバレちゃったのを読んで、思わず数十分で書き上げたやつ笑↓ 明、病んでますので苦手な方注意
血を欲する本能に耐え切れず、気がつくと西山の時と同じように加藤の首筋に噛み付いていた
喉が濃厚な血で潤うと、急速に理性が覚醒する
顔を上げると、口を半開きに目を見開く明と
青ざめ驚愕した表情の田中さんが俺を見下ろしていた
「………」
もう、一緒にはいられない
吸血鬼であることがバレたら、明たちにとって俺は仲間ではない
数回瞬きをした明が、ゆっくりと日本刀を構える
「…明」
自分でも驚くくらい掠れて弱弱しい声だった
だが、明に殺されるなら構わないと思った
むしろ明で良かったと思う
加藤から離れると大人しく地べたに座り込んだ
「ケンちゃん…大丈夫だよ」
「?…」
明の穏やかな声に顔を上げ、思わず悲鳴のような引きつった音が喉の奥で詰まる
「っ……!」
「血が飲みたくなったら、俺がやるから」
明の言葉に田中さんが一歩後退した
「あ…明さん」
田中さんは俺にではなく、明に怯えていた
明は口角を上げ、顔に笑みを浮かべている
だが目が、ゾッとするほど冷たい
どこか虚ろで、洞窟のように暗い色をしている
…まるで
雅のようだ
「明…お前…」
俺の言葉を遮るよう明は話し出した
「血さえ飲んでれば普通なんだから、大丈夫だ。そうだろ?ケンちゃんは俺の味方だよな?」
驚いたことに、明の刃先は意識が朦朧としている加藤や田中さんへ向けられている
「誰にも殺させない。俺は兄貴を連れ戻す為にこの島に来たんだ…これ以上俺から大切なものを奪う奴は許さない」
「?…」
「大丈夫だよ兄貴、俺が一生血を与え続けるから。本土に帰ろう、雅なんかどうでもいいよ」
「明…どうし…」
「ケンちゃんは俺の親友なんだ…ケンちゃんだけは…俺の敵じゃない。なぁ、早く帰ろう。お袋達も兄貴が帰るの待ってるよ」
明の言ってる言葉は支離滅裂だった
相変わらず光のない目が空を漂っている
田中さんは木の陰で震え、恐怖のあまり動けずにいる
「明」
「涼子さんなんかどうでもいいだろ?!今頃、もう雅の屋敷に連れていかれてるよ!なぁ、ケンちゃん」
俺は立ち上がって明を強く抱きしめた
「明、スマン。感染してしまった。もうお前達とはいられない…だが、ユキだけは助けたいんだ」
「ケンちゃん、俺と一緒にいてくれよ。小さい頃からずっと一緒だったろ…これからも一緒にいてくれよ」
「時間がない。ユキを助けるまでの間、俺に協力してくれ」
「ヤダよ!!兄貴!どこに行く気だよ?!また俺を置いていくのか?!」
嫌だ嫌だ、と子供のように泣きじゃくり
腕の中で暴れる明を唖然と見つめた
狂ってる
明が狂った…
その事実に愕然とし立ち尽くしていると、ソロソロと怯えた足取りで田中さんが近づいてきた
「…田中…さん」
「ケンさん」
目が合うと、田中さんは真っ直ぐ俺を見据えた
「明さんの傍にいてください」
「でも…俺は…」
この島では吸血鬼は一人残らず殲滅するのが掟
それに従って篤も、田中さんの母親も殺した
明にとって親友の俺も例外ではい
戸惑う俺を見て田中さんは首を緩く振った
「明さんだけが雅を殺れる…明さんがダメになったらこの島は終わる」
そして今、明が理性を保てるかどうかの瀬戸際
「明、俺はどこにもいかない。お前の傍にいるから」
出来るだけ優しくゆっくりと言い聞かせるように言うと、明は暴れるのを止めた
「ケンちゃん…俺、ケンちゃんを失ったら何も無くなっちゃうよぉ…」
涙でぐしゃぐしゃの顔を胸元に押し付け、ブツブツと繰り返しつぶやくと
不意に刀を田中さんに向けた
「ひツ!!」
田中さんの短い悲鳴に明は壮絶な笑みを浮かべた
「みんな殺そう。兄貴。…人間も吸血鬼も。俺たちがいればそれでいい…だろ?」
「明!よせっ!」
「俺から大切なものを奪う奴は許さない」
俺は明の両肩を掴んでこちらを向かせると、その頬を強く引っ叩いた
「ッ!!」
叩かれた頬が腫れ、口の端から血が滲む
唇を寄せ、その血を舌先で丁寧に舐めとった
「…明」
「ケ…ケン…ちゃ…」
驚いたショックで明はようやくまともに俺の目を見た
「美味い」
俺は出来るだけ軽い調子でニヤリと笑って見せた
「なぁ、明。お前さえよければ、こうしてたまに血をくれ」
「ケンちゃん」
「そうしたら、俺は凶暴にならない。お前の傍にいられる」
な?と、片目を瞑ると明も二・三度瞬きをして、ようやく安心したように肩の力を抜いた
そして我に返ったように田中さんと加藤を見た
「田中さん、加藤を頼みます。俺たちは先を急ぐ」
いつも様子に田中さんがホッとしたように、固い笑みを浮かべた
「はい!大丈夫です。明さん」
何事もなかったかのように、歩きだす明の背を見て、俺は田中さんに視線をやると
田中さんは苦しそうに目を伏せた
「明さんは…ケンさんだけが最後の砦だったんだ。我々が思ってる以上に篤さんを手にかけたことを悔やんでいたんですね」
先ほどの明の言動を思い出す
篤と俺を判別できていない様子は狂人そのものだった
炭鉱で篤が赤黒い目と牙を見せたときと
加藤を襲う俺の姿が重なったとき
明の中で最後の拠り所が崩壊したんだろう
「仲間の中でも俺は親友だったから…」
今や邪鬼をも一人で殺す明は
レジスタンスにとって最強の戦力だ
だが逆に敵になってしまうとこれほど危険な存在はない
もし明が発狂し、敵も味方もなく殺戮に走ったら…雅たちよりタチが悪いと言える
俺だけが明を此方側に引き止めることが出来る
その重大な役割の元、存在することが許されるなら…明の傍にいたい
明…すまない
明の背に何度も詫びながら
ユキを救出すべく足を踏み出した